ホーム > 書面添付実践に関する当事務所の考え方
国税庁発表の資料によると平成27事務年度における法人の実地調査件数は9万4千件、このうち非違があったものは6万9千件で、実に調査のあった法人の3件に2件は何らかの間違いを指摘されており、申告漏れ所得金額の平均は1200万円となっています。以前に比べて調査件数は減少しているものの、いざ調査となるとかなりの割合で否認を受けているという実態がわかります。以上から税務調査には大きなストレスがかかることがお分かりいただけると思います。
当事務所では、経営者にとって負担の大きい税務調査が省略される可能性のある税理士法第33条の2に規定された書面添付の実践に積極的に取り組んでおります。この書面添付は、納税者の委嘱を受けた税理士が、税務の専門家の立場から、その申告書の作成に関してどの程度内容に関与し、どのように申告書に反映させたかを明らかにすることによって正確な申告書を作成し提出することで、税務行政の円滑化・簡素化に資する趣旨から設けられているものです。
書面添付制度の概要
実地調査に至らないケース
また、税務当局も税務の専門家たる税理士の立場を尊重し、添付書面の記載事項を申告書審理や準備調査に積極的に活用し、予め日時場所を指定して帳簿書類等を調査する前に税理士法第35条第1項の規定により税理士に対し意見聴取を行うべきこととされており、記載内容が良好な書面添付について税理士に意見聴取を行った結果、調査の必要がないと認められた場合には、税理士に対し「現時点では調査に移行しない」旨を原則として書面により通知することとされています。つまり、納税者にとっては、原則として実地調査の前に税理士に対して意見聴取が行われ、その結果次第では実地調査に至る前に調査が終了することもある(近年平均では約54%の割合)という大きなメリットがあります。
このように大変有意義な制度であるにもかかわらず、国税庁の資料によれば平成 27事務年度における法人税の書面添付割合は申告件数の約8.6%と必ずしも高いとは言えない割合となっております。この理由として考えられるのは次のようなものです。
① 書面添付を行う立場にある税理士がこの制度をよく理解していない
② 添付書面に虚偽の記載をした場合の税理士への懲戒処分(重い場合は税理士業務の禁止) を恐れて実践しない
③ 書面添付に対する偏見(税務署の下請的な仕事である、重宝するのは税務署だけである、調査の回避になるとは思えない、顧問先に調査省略の無駄な期待をさせるだけ等)
④ 自分にとってメリットがないと考えている税理士が多い(税務調査が省略されると調査立会い報酬を請求できない、書面の作成に手間がかかる等)
⑤ 顧問先に対する周知がなされていない
⑥ 一部の優良企業のように内部統制が機能している会社にとっては有益だが、税理士の関与する小規模企業では内部統制が機能しておらずリスクがある
これらのことからお分かりのように、制度に対する誤解や税理士の一方的な都合、怠慢によるものがほとんどです。申告納税制度の根幹を担う税理士の端くれとしては非常に残念なことです。
そもそも書面添付は税理士の権利とも言えるもので、税務当局に対し申告書に関する意見を堂々と主張できる制度であり、書面添付の実践により決算書・申告書の正確性は高まり、税務当局はもちろん金融機関からの信頼も高まるものと考えられます。ただ、この書面添付制度は税理士の業務品質がいくら高くても、対象企業の決算書の信頼性が担保されていないと全く意味のないものになってしまうどころか、場合によっては作成した税理士が懲戒処分の対象になってしまいます。
税務の専門家である税理士とて、真実と異なるデータを基に決算書・申告書を作成してもこれらが虚像であることに変わりはなく、書面添付によって虚偽の記載をしたことになるとペナルティは免れないことになるでしょう。このような処分を恐れて書面添付実践に踏み切れない税理士がたくさんいるのも事実です。しかし、本当に顧問先のことを大切に思っているのなら顧問税理士として書面添付を実践すべきであり、書面添付を実践できるよう顧問先企業が適正申告をするための指導をしなければならないと思います。
ただし、誤解のないように申し上げておきますが、書面添付の可否を判断するのはあくまでも税理士自身であり、書面添付は決算書および申告書の内容が真実を反映し適正であるとの心証を税理士が得ることができた場合に限り実践すべきものであって、適正申告を行うための指導は行ったものの適正であるとの心証を得ることができなった場合まで実践すべきものではないと考えております。
書面添付実践のためには当事務所が業務品質の向上に努めることはもちろんですが、当事務所が努力することに加え、顧問先様の書面添付制度に対する正しいご理解とご協力、そして何よりもお互いの信頼関係がなければ実践することはできません。書面添付の前提となる適正申告は正しい決算書から、正しい決算書は毎月の巡回監査による会計事実の確認から生まれます。当事務所では毎月の巡回監査で適正申告を行うための指導をいたしますので、是非とも適正申告・書面添付を実践し、税務当局や金融機関から厚い信頼を寄せられる企業に成長されるまでご支援いたしたいと思います。
==著書の紹介==
「改正・税率引上げ・経過
措置と消費税実務」
(JPマーケティング(株))
近畿税理士会所属 |